【エロゲ感想】白昼夢の青写真(Laplacian)

Laplacianさん作「白昼夢の青写真」の感想になります。

「白昼夢の青写真」は、2020年9月にLaplacianから発売されたエロゲです。
case1~3の3つの物語を展開し、最後のcase0で全ての謎が明らかになる物語ですね。

※ネタバレ全開ですのでご注意ください。

「白昼夢の青写真」のネタバレ無しレビューはこちらのサイトに掲載しております。

白昼夢の青写真の公式サイトはこちら。

目次

シナリオの感想

CASE-1

《あらすじ》
45歳の非常勤講師“有島芳”は無味乾燥な日々を送っていた。 小説家を目指すのを諦めて空虚な日々を送り、妻との関係もすっかり冷え切っていた。 そんな中、芳は憧れだった作家“波多野秋房”の娘である“波多野凛”と出会う。 凛と言葉を交わしていくことで、芳の毎日に少しずつ色が戻っていく……。

シナリオ評価:A

締めがちょっと気になるところはあるものの、全体的には良かったと思います。
教師と教え子の禁断の恋愛は背徳感があって良きですね。

OPでキスしてるCGを見て、「え、浮気じゃんw」と笑ってたら、
あれは妻が家を出ていった後のシーンでしたね。有島先生も最低限の面目は保っていた様子。

とはいえ、凛の影が頭にちらつくからそれを消すために妻を無理やり犯したり、
料理をもてなそうとする凛に説教をかましたり、人格的に問題のある人物であることは疑いようがないですが……w

高級なワインを出してきた凛に説教した時、凛は悲しんで感情的になります。
それを有島が後で振り返ったとき「自分の言葉が凛に届いていた」ことを実感して、彼は嬉しさを覚えます。
「うーん、クソだな」って思いましたねw

まあそういった有島の心情が丁寧に描かれていたのは非常に良かったですけども。

そして有島は凛と一緒にいるときに書店で元妻と出くわしてしまいます。

凛との関係が壊れそうになる展開はちょい強引でしたが、
凛が見せつけるように腕に絡みついてきたあのシーンは印象に残りましたね。

(凛、悪い表情してるなあ……w)

「いやーこの子、結構エグいことしてくるなー」と苦笑いしてしまいました。
嫉妬してくれるのは可愛いですが、ちょっとラインを越えた感はありましたよね。

ラストはまさかの別離ENDでした。

描写がボカされていますが、凛は芳に迷惑をかけないために離れると思われます。
子供を産む決意を固めているので、一緒にはいられないということなんでしょう。

うーん、わりとビターエンドって感じで、ハッピーエンドではありませんね、これは。

個人的にはややしこりが残る結末だったかなと。

CASE-2

《あらすじ》
酒屋を営むウィルは劇の脚本を書いていた。 ウィルは流れでオリヴィアという貴族の女性の奴隷となり、オリヴィアの所属する劇団で脚本を書くことになる。 ライバル劇団の作家であるクリストファー・マーロウに仲間のエドを売られて怒りに狂ったウィルは、 彼を倒すために芝居に本気で打ち込むようになる……。

シナリオ評価:A

前半は盛り上がって面白かったですが、後半で少し失速したかなといった印象でした。
ただ、シナリオは王道的で、大きく外れることはない感じの内容でしたね。

酒場の息子である主人公がまさかのシェイクスピアだったことが明かされる序盤は驚きましたし、
殺された仲間のためにウィルが奮起し、芝居に本気で打ち込むようになっていくのは素直に熱い展開でした。

オリヴィアが酒場に来てくれるようになると、CGにしっかりオリヴィアが追加されるのも良い演出でした。
次第に酒場に溶け込んでいく彼女の様子を上手に描いていたと思います。

彼女はウィルと一緒に過ごしていく中で徐々に変化していくんですよね。
キキとトーマスを呑みに誘うシーンはめちゃ笑えて面白かったです。この√で一番のギャグでしたねw

彼らも個性的で良いキャラをしていました。コミカルな掛け合いが面白かったですね。

一方で気になった点としては、後半の展開でしょうか。

前半に比べてやや盛り上がりには欠けていたかなーと。

二人が一緒になれないことが決まっている筋書きで淡々と進んでいっただけでドラマもなく、
あまり見応えがなかったですね。

マーロウが何かしてくるのはわかりきっているのに、
その対策を何も用意せずにあっさり捕まるのはさすがに「どうなの?」と思いました。

「舞台に立てるのは男だけ」という慣習を無視して捕まった劇団が、なぜか宮廷演目に選ばれていますし。
貴族は噂好きみたいなので、そんな事実は一瞬で女王の耳にも入ると思うんですが。
(まあこの辺はご都合ということなのでしょうけども)

そんな感じで、後半はちょっと気になるところが多かったですね。

とはいえ、全体的には十分面白かったと言えるデキなので、
そこまで大きく批判するほどの内容でもないですね。

個人的にはギャグが笑えて良かったなと思いました。

(この3人の掛け合いは笑えましたね)

ちなみにラストで別れる展開は伏線っぽいです。
詳しくはわかりませんが、なんかそうなるように決まっているようですね。
case3でも、すももとカンナは別れる展開になるのでしょう。

case1は最初だったのでラストが大分気になりましたが、
case2ではもう匂わせてきていたので、別離END自体に対しての批判はないですね。

プレイ順で各caseの印象も変わりそうな感じがします。
公式はどの順番を推奨しているのでしょうか。少し気になりました。

……にしても、ここからどうcase0に繋がっていくんだろう。
伏線は結構撒かれていますけど、全然わかんないですねw

CASE-3

《あらすじ》
写真を撮りたい主人公のカンナは学校にいく意味を見出せず不登校になっていたが、 教育実習生の桃ノ内すももの来訪をきっかけに、不登校であることが父に明るみになってしまう。 家に居場所がなくなったカンナはガレージで生活することに。 母が残した車の修理を修理工である梓姫に依頼するが、 様々なトラブルに見舞われた結果、カンナは彼女とガレージで共に生活するハメに。 母が残した車の修理をする梓姫と、てんで教師には向いていない桃ノ内すもも。 カンナと彼女たち、三人の少し変わった日常が描かれていく……。

シナリオ評価:B

話にそこまで広がりはなかったものの、全体的に丁寧にまとめられていましたね。

写真家になりたいカンナは父との関係が上手くいっていませんが、
ヒロインのすももが間に入ってくることで色々なわだかまりが解消していく……という、
まあ王道的な感じのシナリオだったと思います。

ヒロインのすももは思ったことをすぐ口に出すタイプなので空気が読めていないところもありますが、
ちゃんと可愛げもあるので総合的には良かったかなと。

(これは本当にベストショットですよねぇ)

気になるところは世界観、でしょうか。
人工鳩に電波が食われた世界というのが引っかかりました。

ラプラシアンの過去作『未来ラジオと人工鳩』の世界観を共有していると思うんですが、
私はプレイしていないので、いまいちどういう事態になっているのかが把握できなかったです。

電波が使えないので動画配信もできなくなった、などの言及がありますが、
それ以前に電波が使えなくなるって、今までの生活が根本から覆るほどの大問題だと思うんですよね。

過去作で何があったのかはわかりませんが、
あんまりそういった生活部分に関しての言及がなかったので、上手く呑み込めなかったですね。

ファンサービスだとしても、独自の世界観を共有するまでしてしまうと、
私のような未プレイユーザーは若干ついていけないんじゃないかなと。
ふわっとした認識のまま話を読み進めていくことを強いられてしまうので。そこのところはちょっと気になりました。

まあ気になったところはそれぐらいなので、全体的にはよくまとまっていたんじゃないかなと。

何気にこのcaseではスペンサーに一番驚きましたね。
いや、もうcase2のスペンサーと同じやないですかとw

彼はカンナと大事な話をしてるんですけど、私は笑いを堪えるのに必死でしたw
あの喋り方は最初イラっとしましたけど、擦られるとなんか笑えてきますね。

case3の感想はそんな感じで。

ここからいよいよcase0に向かうんでしょうか。
今までの伏線がどう回収されていくのか、見物ですよ。

CASE-0

《あらすじ》
海斗は世凪や遊馬先生との出会いを経て、中層の研究員を目指すことに。 遊馬が目指す人類の楽園となる『仮想空間』の構築、その理念に共感した海斗は彼の元で共に研究をすることになる。 そして海斗は世凪が持つ独特の思考空間生成能力を用いて、理想的な仮想空間の生成に成功する。 その成果が認められた海斗は世凪に報告。 中層に家を持った海斗は世凪と一緒にそこで生活しようと提案するも、彼女は心から喜んでくれない。 そんな世凪の様子に苛立ちを覚えた海斗は厳しい言葉をぶつけ、彼女と仲違いしてしまうが……。

シナリオ評価:A

海斗と世凪の出会いから、物語の結末までが一気に描かれる真相パートでした。

ホログラムの海斗の指示で記憶がなくなっている海斗が自らの過去を追体験する。
そういう形で海斗と世凪の過去が明かされていきます。

case0はメインシナリオということで結構長いので、順を追って感想を述べていきますね。

幼少期編は世凪との出会いや海斗の家庭環境を、
世界観の解説を交えつつ上手に描いてましたね。

階層社会で富や身分に差がある本作の街を見ていると、
AUGUSTの穢翼のユースティアを思い出しました。

あちらは完全にファンタジーですけど、社会の形としてはすごく似ているんですよね。
後述する「一部の人間だけが知る秘密がある」というのも共通していますし、参考にしているのかなーと思わなくもなかったり。

話を戻しまして。

本作の人類は独自の進化を経て紫外線に極端に弱くなっているようで、
直接浴びてしまうと細胞が黒く変異して死に至ってしまうようです。恐ろしく紫外線に脆弱ですね。

なので本作の街は地下都市となっており、
基本的に地上に出ることは叶わない世界となっています。

(地下要塞みたいな独特の街ですね)

そんな閉鎖的な街に住んでいる海斗と世凪は、
海斗の母や途中で見つけた小鳥と共にささやかな日常を楽しんでいましたが……

後に海斗の母も小鳥も死んでしまうという、なかなかにショッキングな展開が待ち受けていました。
救いがなさすぎてヤバイですね……。

あとこの前半では上層民のシャチも死亡します。
まあシャチはヘイトを集めるキャラだったので全然死んでくれて構わなかったんですけど、
そのときの描写があっさりすぎて緊迫感に欠けましたね。

オゾンレンズの上に人が登るという大事件が起きているのに、描写が淡白すぎました。
もっと騒々しく描いても良かったと思いますよ。軽く流すようなレベルの描写で違和感がありましたね。

そして時は流れて、海斗と世凪の青年時代に突入します。

海斗と世凪が同棲していると聞いて「おやおや~?」と気持ち悪い笑みを浮かべてしまいましたが、
海斗が家に帰ったときに私は思わず衝撃を受けましたよ。

いや、成長した世凪可愛すぎか???

なんか色々話してるけど、海斗はこの美少女とチョメチョメしたのか気になって仕方がない。
こんなに可愛い子と何年も同棲してるわけですよね? 私の頭の中はもうずっとこれでした。

それでまあ世凪が持つ不思議な思考空間生成能力を研究に組み込むことで、
海斗と遊馬が目指す理想的な仮想空間の構築に近づいていきます。

成果を上げた海斗はあっという間に研究員となり、中層に家を獲得します。
海斗は喜び勇んで世凪に報告するも、彼女はあまり嬉しくなさそうで。

ここからまた鬱パートに突入といった感じでしたね。
世凪のパーソナルな情報が描かれ、彼女の抱える悩みが明らかになります。

  • 父が研究員で世凪は元々中層民だったこと
  • 父が認知症を患って亡くなっていること
  • 父と世凪を捨てた母のことを彼女は恨んでいること
  • 世凪は父の病が遺伝していることを把握しており、海斗とずっと一緒にはいられないと考えていたこと

ざっくりこんな感じの事実が明かされましたね。

いやー……重いですね。かなり重いです。

にしても世凪は病気持ちヒロインだったか……。
病気持ちのヒロインって大概ロクなことにならないんですよね……w

そして同時に行われる怒涛の伏線回収。

世凪の部屋はまんまcase1の波多野秋房の部屋で、
世凪が悲しみに暮れる様子は、case1の凛が泣いているCGと対比させてきています。

case1に描かれてきたものの意味が一気に明らかにされていく。
私たちのようなエロゲーマーが大好きなやつですよ。こういうのたまりませんね!

世凪は自身の記憶が徐々に失われていくことを知っているので、海斗を遠ざけようとします。
が、海斗は世凪がいない日常に苦痛を感じ、世凪がいないとダメなことに気付きます。

ここの2人の距離の詰め方は良かったですね。

世凪がわりとあっさり説得されるんですけど、
ここで意固地になられても平行線になるだけなので、これで良かったような気がします。

物覚えのよい海斗の中に、二人の思い出はあり続ける。
それを語り聞かせていくことで、世凪は人の中に生き続ける。

この考え方は素敵だなって思いました。

世凪の抱える悩みや気持ちの整理に、ある程度の決着を付けたシーンでしたね。

ちなみにこのシーンで地味に気になったのは、
世凪が「子供産まないよ」と言ってたのに、その後のエッチシーンで海斗がしっかり中出しキメてた点ですね……w

これはどこからツッコんだらいいんだろう……ってなりました。
エッチシーンで面倒な問答を書くのが嫌だったんでしょうか。

けど世凪にとっては重要な問題だと思うので、そこを曖昧にはしてほしくなかったですね。
「いや、子供産みたくないんだよね……?」とモヤモヤしてしまうので。

まあ「安全日だったんだろう。きっと!」と強引に解釈しておきますw

その後は世凪が研究に協力しつつ仮想空間の実現を目指して邁進する遊馬と海斗ですが、
恐れていた世凪の病が発症、それを見て心が折れた海斗は研究の中止を提案するも、
それを許すわけにはいかない遊馬は世凪を攫って強硬手段に出る……という流れでした。

かなりドロドロした展開になってきました。

遊馬がここまでしてくるのは意外でしたね。
涼しい顔してとんでもないことしてきます、このおじさん。

(表情と言動のギャップがすごいんですよね……w)

この段階ではなぜ遊馬がここまでしてくるのか理解できないわけですが、
後で明らかになってきますので一旦置いておきましょう。

それよりもこの場面で気になったのは、海斗の心の動きですね。

  • 「母さんみたいな病気を患っている人に希望を与えたい。世凪、研究に協力してくれ」
  • 「世凪の記憶がなくなった姿を見たら心折れました。研究やめます」

いや、ブレッブレじゃないですかとw

心が折れる過程とかもなく一瞬で折れていたので、ちょっと違和感強くて笑っちゃいましたね。

個人的にはこの場面はもう少し尺を取って、海斗に葛藤させるといいんじゃないかと思いました。

「街の未来のために、ここはなんとか堪えて頑張らなければいけない」
「世凪も本心では止めたがっていたはず。今すぐ研究を中止するべきだ」

この2つの気持ちの板挟みになる海斗を描くのが、流れとしては自然だったかなと。
いきなり研究中止の決断に至るのはいくらなんでも早すぎますよね。

また、そうすることで「海斗の様子がおかしいことに気付きながらも、それを指摘しない遊馬」を描くこともできますよね。

海斗は葛藤していて気持ちに余裕がないので、研究への狂気じみた執念を持つ遊馬に気付くことができない。
そんな海斗を遊馬は黙って見ている。

そんな感じで、研究に対する二人の温度感の違いを描くこともできます。

ここは少し改善の余地があるように思いましたね。

そして世凪を奪った遊馬は世凪の前頭葉を切除するという非人道的な方法を用いて、仮想空間の完成を目指す。
自我が失われた世凪を見た海斗は絶望してふさぎ込んでしまうも、そんな彼の元に再び遊馬がやってくる。

仮想空間の住人全員が同じ夢を見る問題を解決できなかった遊馬は、海斗に協力を依頼しにきたのだ。
「3種類の夢は世凪からのメッセージだ」と解釈した海斗は、条件を提示して遊馬の依頼を受ける。

ここはなかなか熱かったですね。
世凪の中にいる住人が全員同じ夢を見るという発想は正直浮かばなかったので、ここは凄いなと思いました。

前頭葉を奪われても、海斗と過ごしたあの世凪は生きている。

世凪が創作した3つの物語の意義を示しつつ、海斗に明確な希望を与える。これ以上ないアプローチでしたね。

そして世凪の脳のどの部分が彼女の自我を形作っているのか。
海斗はそれを把握するために、世凪が送るイメージに対してリアクションを返す。
つまり、海斗はcase1~3の主人公となって各物語を進行していく必要に迫られたのであった。

やや強引ですが、まとめるとこんな感じですね。
ここでプロローグの記憶喪失の海斗の場面に繋がります。

最初の場面に追いついたことで、case1~3の物語がどのような意味を持つのか。
それが全て明かされた感じですね。

世凪の書いてきた物語を追うことで彼女の自我を取り戻す流れは、
彼女の描き上げた創作物たちが本懐を遂げている感じがして、美しいなと思いました。

あと、出雲が地味にアドリブを利かせていたというのも意外で面白かったですね。
「世凪は幸せな結婚生活しか知らないから、祥子のセリフが温い」と厳しい指摘が入ります。
このシーンの出雲さん、ほんと女優でしたねw

世凪の想いが詰め込まれた、彼女の分身とも言える物語たち。
それらが夢となって海斗に訴えかけてくるのは、まさに世凪の魂の叫びだったと言えるでしょう。

(パッケージのイラストはこの場面で回収されますね)

自我を取り戻した世凪と共に海斗は思い出の場所を周るが、
それを終えたところで、世凪の指が動かなくなるという異変が発生する。

母親と同じ症状が世凪に起こっていたが、原因がわからない海斗は遊馬の元へ。
そこで海斗は遊馬から、世凪の病と地下都市の真実を聞くことになる……。

ここで前提を引っくり返してきた感じですね。

紫外線の脅威など真っ赤な嘘で、真の人類の脅威は「基礎欲求欠乏症」という病であることが明らかに。

まあ世凪の指が動かなくなった時点である程度察してしまった感はありましたけど、それでもなかなか驚きましたね。
海斗の母親の病がなんだったのかは気になってはいたんですけど、こういう形で繋がってくるとは思いませんでした。

あとこのシーンで個人的に刺さったのは遊馬の奥さんの本心ですね。

奥さんが遊馬との日々をどれだけ大切に想っていたのか。
それが深く伝わってきて、なかなかジーンと来ましたよ。

「里桜の入れるコーヒーが一番旨い」と告げる遊馬のシーン、嬉しかったんだろうなって。
短いシーンではありましたけどめっちゃ温かい気持ちになれて、かなり好きでしたね。

(遊馬の奥さん、めっちゃ良い人……)

遊馬から話を聞いた世凪は、自らの意志で世界となる決断をする。
海斗は世凪という少女がいたことを、世凪の中の仮想空間で人々に語り聞かせていくことを誓う。

これが今生の別れになる……と思いきや、仮想空間の中に世凪が現れる。
それは、仮想空間の住人が世凪という少女を知ることで起こった奇跡であった……。

と、こんな感じで本作の物語は幕を閉じますね。

最後はぶっちゃけ「まあそうなるか……」といった終わり方で、
ぶっちゃけ予想できる範囲の結末ではありました。

「世界と呼ばれた少女」というキャッチコピーの通り、
自らの思考空間を仮想空間として提供し、街の人々の希望となる。

とても綺麗に締めていたので読後感は良いと思いますが、
ハッピーエンドとは言い難いですね。

作中でも述べていた通り時間稼ぎにしかなっておらず、
基礎欲求欠乏症の根本的な解決はまだまだ先になりそうで。

エピローグまでの描写では本作の結末はメリバと言えるものだと思います。
わりと人によって評価が別れそうな感じもしますね。

私は正直このラストはなんか「無難だな」と感じてしまったので、
もっとこちらが驚くようなラストを見てみたかったなというのが本音です。

街の歴史の真実が説明されて、世凪の意思を確認して、
「なるほど、それでどうなるんだ……?」と思ってたら普通に終わってしまったので。

少し話は逸れますが、EDも黒背景なのは寂しかったですね。

世凪が作った世界をイメージできるように、
広大な海や草原の景色をバックに流した方が良かったんじゃないかと。

case1~3のギミックは光っていてそこは大きな評価点なのですが、
ラストにもう一山あれば……といった感じでした。

ちなみに世凪との再会はご都合を感じますが、
それっぽい理由付けはされているのでこれはこれで良いと思います。

(なんだかんだ言って、世凪の笑顔は最高ですね)

余談

クリアしてタイトル画面に戻ると、
広場を眺める海斗と出雲の背景に変わっています。

が、本編のそれとは少し違って、二人が見つめる光景に街の人々が追加されているんですよね。
ここで注目したいのは左下の少年と少女。この二人は海斗と世凪だと思われます。

(幼少期の二人のCG。服装が一致しています)

このクリア後の背景に映る人々は、海斗と出雲が幻視している想像の光景ということなんでしょうか。

住人が紫外線や病などを気にすることなく暮らせる、賑やかで活気溢れる平和な街になってほしい。

そんな二人の願いを表現している、そういう意図なのかも……?

左側と中央の人々は若干光に照らされていて明るい印象を受け、
右側の海斗と出雲の姿にはどことなく影が強調されていて暗い印象を受けます。

「理想と現実」とか「過去と今」とか、もしかしたらそういう対比なのかも。
まあ、単に光源が左にあるからとか色彩のバランスとか、そういうので描き分けてるだけかもですがw

にしても私の解釈で考えれば、あの光景は二人が見ている「白昼夢」ということになりますね。

最後の最後でタイトルを示唆する演出を入れてくるというのは、なかなかオツなものです。

主人公“海斗”の感想

病気の母のために研究者になって、色々頑張る主人公。

case1~3は世凪の創作であることが中盤で明かされるので、
case0の主人公である海斗が、本作の本当の主人公と言えるでしょう。

母や世凪のために頑張る姿はかっこいいです。
しかし、中層の暮らしは良いものだと決めつけて、世凪の煮え切らない態度に感情的になってしまう。
そんな独りよがりなところは欠点と言えますね。

また、世凪の抱える悩みにギリギリまで気付かないのは残念ですし、
世凪の記憶退行が始まったら速攻で心が折れてしまうのも、見ていてかっこ悪かったです。

同棲している世凪を女として求めず研究に没頭するところもマイナスで、
「男としてはなかなかに残念な主人公なのでは……?」と思ってしまいましたね。

遊馬と対峙する場面では、遊馬の言い分の方が筋が通っているように感じました。
海斗は行動が一貫していないので当然ですよね。まあ、その点は遊馬にも指摘されていたわけですが。

総じて精神的に未成熟な主人公なので、見ていてストレスを感じてしまう方もいるかもしれません。

また、基本的に「ヒロインに助けられる主人公」という構図なので、
男としてヒロインをグイグイ引っ張っていくような主人公がお好きな方には合わないかもしれませんね。

あと、なんか基本的に髪がボサッとしているイメージ。
今思えばcase3のカンナの髪がボサボサだったのは、海斗のそういうところを世凪が気にしていたからなのかもw

まあ海斗は研究者気質な人間なので、見た目に頓着しないタイプなんでしょうが……。
世凪は思うところがあったのかな?

いずれにせよ、世凪は海斗の理解者ですね、やっぱり。

総評

『白昼夢の青写真』はcase1~3の3つの物語が、
核となるcase0の物語に繋がっていく独自のギミックが光る作品でした。

あれだけ綿密に描かれた各caseの物語が、まさか作中作だとは思いもよらず。
これはシンプルに驚かされました。
UIも各case毎に違う凝りようで、力の入れ方が凄かったですね。

というか「この3つがどう繋がるんだ。どう考えても無理では……?」
とか思ってたので、まんまとやられましたね。これはわかんないですよw

まあ「世凪めちゃくちゃ才能あるな」とか、ちょっと場違いな感想も浮かびましたが。
case1の有島先生の心情の書きこみとか凄いですよね。
年頃の少女があれ書いたと聞いたら、出版社の方飛んで来るんじゃないですかw

あと細かい部分で言えば、case2のオリヴィエと、case3のすももの非処女設定には騙されましたね。

「ヒロインなのに非処女」ということでエロゲの不文律を破っているように思えましたが、
世凪の創作の人物なので別に非処女でも問題なかったという。
ここは後から気付いて、感心させられましたね。

一方で、世凪の抱える不幸や世界観の設定に関しては、微妙に既視感を覚えてしまったのが気になりました。
なんかどこかで見たことあるような設定、といいますか。

病気持ちのヒロインがいる作品なんて沢山ありますし、
階層に分かれた格差社会はユースティアを想起させますね。

病気持ちのヒロインに関しては「ああ……」となってしまいますね、どうしても。

悪い言い方にはなってしまいますが、使い古されている設定なので既視感がどうしても付きまとってしまいます。
ヒロインの悲劇性を中心に描く以上ヘビーなストーリーが展開されるので気が重くなりますし、
なにより結末がある程度予想できてしまうのもね。(基本的に救いがない感じ)

階層社会に関してはユースティアほど書き込みが深くないので、あまりイメージできなかった感じがします。
下層の汚い場所とかゴミ捨て場くらいしか描かれていなかったので、もっと色々見せてほしかったですね。

それとこの作品、全体的に事象の描写があっさりしているのも少し気になりました。

先に述べたシャチの事件とかは特にそう感じた場面で、
センセーショナルな描き方といいますか、こちらの感情を揺さぶってくるような描写ができていないというか。
もっと周りの人たちの反応とか具体的に描いて、緊迫感を出してほしかったですね。

心情描写は上手いなと思ったので、そこはとても良かったんですけども。

あと、システム面で言えばテキストとボイスの食い違いが多いですね。

(例)
テキスト「負けたくなくなった」
ボイス「負けたくなかった」

みたいな感じで、結構ありました。

パッチが配布されていれば特に言及しなかったんですが、されていないので触れさせていただきました。
もう少しデバッグを頑張っていただけると嬉しいです。

本作は世間的にかなり高評価な作品なので期待していましたが、
正直、期待通りという感じの内容ではなかったかなーと。

誤解のないようにフォローさせていただくと、完成度は高いですし、デキはかなり良いです。

ギミックは斬新で意外性があり、今まで見たことない作りのエロゲで面白いです。
終盤は普通にのめり込めますし、ラストがどうなるかはとても気になります。

良作以上なのは間違いないと思います。

けど、個人的に刺さる要素があんまりなかったかなと。

私はエンタメ性の高い作品が好みなので、そういった要素が薄かったのは結構響いたのかなと思っています。

あとはやっぱり締め方かなあ……。

心に残るような衝撃のラストとかだったら、大分違ったと思いますが、
本作のラストは極めて順当なラストといった感じなので、物足りなさはどうしても覚えてしまいましたね。

まあ当然、そこが良いと感じる方もいると思います。

ラストをどう捉えるかが、本作を評価する上で重要な点になってくるのかなと。

『白昼夢の青写真』は独創的なギミックと、
3つの物語が1つの物語に集約される構成が素晴らしいエロゲでした。

個人的な意見にはなりますが、
エロゲのプレイ本数が少ない初心者の方は、特に楽しめるような作品になっているんじゃないかなと思いました。

テキストが短めでテンポが良いので、読みやすいのが大きいですね。
物語が各caseに分かれているので一段落付けやすく、キリの良いところで置きやすいのもありがたいです。

構成は独特ですが話としてはシンプルなので、取っ付きやすさもあると思います。
まあ、世凪の境遇はなかなかに過酷なので、その辺りは少し辛くなりそうですが……w

ジャンルとしてはSFや科学といった感じなので、サイエンス系の作品がお好きな方にもおすすめしたい作品です。
科学考証は専門の方に依頼されているようで、その辺りは抜かりないですね。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

(こういう日常の一コマ、好き)

点数

シナリオ 17
(劇的な熱さはありませんが、総じてレベルは高いです)

キャラ 16
(成長した世凪がとても可愛かった。あとスペンサーには笑いました)

音楽 17
(曲はなかなかですね。case3のOP「恋するキリギリス」が好きです)

システム及び演出 19
(OPやUIが各case毎に違うのはかなり凝っていました。ムービー鑑賞機能があるのも○)

全体の完成度 19
(高いですね。よくまとまっていると感じました)

合計88点です(100点満点中。各項目は20点満点)

商品リンク

おまけ

マスターアップイラスト

公式Xのヘッダー画像

ラプラシアン公式Xのこの画像は横に広く、ゲームでは見えない部分まで映っています。

左の男性二人は物々交換をしているところでしょうか。
結構大きく描かれているので、全体として眺めると遠近感がより際立ちますよね。

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