【エロゲ感想】千の刃濤、桃花染の皇姫(AUGUST)

『千の刃濤、桃花染の皇姫』の感想になります。

『千の刃濤、桃花染の皇姫』は、AUGUSTから2016年9月に発売されたエロゲです。
略称は『千桃』ですね。

主人公“鴇田宗仁”とヒロインの“宮国朱璃”が、皇国を敵国に明け渡した逆臣“小此木”の打倒を目指して奮闘する物語。

※ネタバレ全開ですのでご注意ください。

『千の刃濤、桃花染の皇姫』公式サイト

『千の刃濤、桃花染の皇姫』ネタバレなしレビュー(姉妹サイトへ飛びます)

目次

シナリオの感想

雪割草

小此木に皇国を奪われる導入から、宗仁と朱璃が本当の主従の関係で結ばれるまでを描いたパートとなっています。

ここの終わりでOPが流れるのですが、ぶっちゃけ共通パートといっても差し支えない内容でしたね。

朱璃との出会い、滸との関係性、エルザ・古杜音・翡翠帝の登場など盛り沢山でした。
中身もかなり濃く、充実した内容だったように思えます。

シナリオに関しては率直に最高でしたね。めちゃめちゃ面白かったです。

共和国の支配下に置かれてしまった皇国を、皇家の生き残りである朱璃が再興させようとする。

なんというか、「コードギアスが好きな人は絶対に好きになるだろう」といった感じの熱いストーリーですよね。
朱璃が皇帝となって皇国を取り戻した光景は、誰もが見たいと思うでしょう。

そして本作がテーマとして打ち出している「忠義」の描写も見事という他ないですね。
武人たちの誠忠の姿勢、朱璃の皇家としての志の高さには感銘を受けました。

こうなんといいますかね、難しいことは抜きにしてもうシンプルに格好いいんですよ!
主君に仕える、国に仕える。そのために生きている。彼らの高潔な精神が本当に素晴らしいですね。

まあ朱璃は何度か自身の姿勢がブレてしまいますが、
それでも宗仁と共に過ごすことで、主として立派に成長していました。

臣下の行く末を最後まで見届ける。その勇気こそが主に求められるものだ。

大事な気づきを得たこの時の朱璃は本当にもう、「我が主」でしたね。

シナリオに関してはそんな感じですが、本作は演出のレベルも非常に高いです。

立ち絵と背景の絶妙な配置でCGのように見せる手法が見事ですし、

物体が刀で切断されて奥に滸が現れる。この見せ方もすごいです。

日常シーンでも朱璃が二階から外を見ている様子、車に乗っている様子をフロントガラス越しに映すなどの細やかな演出が光りますね。

個人的に演出で一番印象に残ったのが、「朱璃が夜の陵墓で宗仁に短刀を突き付けるシーン」です。
以下の3枚の画像をご覧ください。

この3枚の切り替えで、時間の経過を見事に演出しているのです。
これには思わず溜息が漏れましたね。

夜から朝へと時間が流れていくこの場面は、朱璃と宗仁の関係の変化が描かれている場面でもあり。
二人の関係性が一段上に昇華されたように感じられて、非常に趣深いです。

こういったAUGUSTさんならではの粋な演出、
ビジュアルノベルとしての芸術性を感じられる表現が私はたまらなく好きなんですよ。
思わず拍手を送りたくなるぐらい素晴らしいシーンでしたね。

他にも語りたいことは山ほどあるのですが、
さすがに記事が膨大になってしまうので、ひとまずはこの辺りにしておきましょう。

お次のパートは終戦記念式典で爆発が起こるところからですね。

千桃、面白すぎてクリックする手が止まりませんよ!

花篝

稲生滸√

シナリオ評価:A

滸に焦点が当たっていたので、滸√といって差し支えないでしょう。

明義隊を全滅させて自分だけ生き残ってしまった滸は自責の念に苛まれ、奉刀会の会長になる覚悟を固めきれていませんでした。

しかし、稲生刻庵救出作戦において槇とぶつかることで、滸の後ろめたさ、自信を持てない心の弱さを克服することに成功。稲生家当主としての自覚を持った滸は、自らの忠義を果たすべく、奉刀会会長として刀を振るっていくようになる。

一皮むけた滸の姿は素直に格好良かったです。

宗仁に背中を預け、槇と一戦交えることで成長した滸。

奉刀会本部で不知火を掲げ、会長として金打する姿が印象的でした。素晴らしかったです。

また、滸√は槇の活躍にも触れないわけにはいきませんよね。

《八月八日事件》は部下の不始末で起こってしまった。
それを重く受け止めていた槇の本心が描かれたのは良かったです。

奉刀会のことを誰よりも考えていたこと。
滸を奉刀会の会長として相応しい、実力ある人物だと認めていたこと。

口下手ですぐ手が出てしまう槇は個人的にはあまり好きではなかったのですが、
ここに来て一気に評価が逆転しましたね。

もう本当最高でしたわ。これだからエロゲはやめられん……!

あと、何気に槇と睦美さんが良いコンビすぎて早く付き合えと思いましたw
この二人結構お似合いだと思うんだよなぁ。

まあ良かったところはそんな感じで。

反対に気になったところは2点ほどありますね。

1点は「槇が共和国側に付き、一人で警備しているところを滸と出会う展開」ですね。

これはいささか都合が良すぎるかなと。
物語としては面白いんですけどね。個人的には、用意された舞台感がすごくて違和感がありました。

そもそも共和国側は警備をさせるとかそんなことよりも、
まず槇には「奉刀会の本部の場所を話せ」と迫りそうなものですが。

「滸vs.槇」をやりたかったのはわかりますが、
そこまでの過程がかなり無理やりだったのが目に付いてしまいましたね。

もう1点は「滸が刻庵の死体を見間違えたこと」ですね。

さすがに父親の姿は見間違えないと思うんですけど……w

まあ暗がりで見えにくかったとかの事情もあるかもですが、
あの場面においてはまず、死体が本当に刻庵なのかを確かめる流れが自然なのかなーとか思ったり。

まあそういう細かい描写がないまま戦闘に入っていくのも、上記の展開をやりたかったからなんでしょうね。
上に挙げた点と被りますが、やはりここのシーンは少し無理やりな印象は拭えないですね。

気になった点はそんな感じでしたが、総合的には十分面白いと言えるデキだったのでA評価としています。細かいことを抜きにすれば、熱くて盛り上がるエンタメ性の高いシナリオだったかなと。

武人としての滸と、恋する乙女としての滸と、アイドルとしての滸。

滸役の波奈束風景さんの多用な演じ分け、さすがでしたね。
そこも非常に素晴らしかったです。

火取虫

鴇田奏海√

シナリオ評価:B

翡翠帝である奏海に焦点が当たっていたので、奏海√ですね。

前半の竜胆作戦を詰めていくシーンはなかなか良かったと思います。

宗仁、奏海、エルザの三人が独自の思惑を隠しながら作戦を詰めていく過程には様々な見所がありましたね。

翡翠帝の正体が奏海であることの発覚から動き出したこのシナリオは、とにかく宗仁たちの想定通りに進みません。
「この先どうなるんだ?」という緊張感が常にあったので、そういう意味では非常に楽しませていただきました。

私がここで特筆したいのは、エルザの優れた洞察力です。

彼女は宗仁たちの隠し事(奏海が妹であることや、朱璃が皇家の生き残りであること)を的確に察知してくるんですよ。
軍の上級大佐であるエルザの能力の高さ、そこが遺憾なく発揮されていた点を私は評価したいです。

ノベルゲームは主人公側に都合の良い展開になりがちで敵役が無能になることがわりと多かったりするのですが、本作は敵もしっかりと頭を巡らせてくるので、一筋縄ではいきません。

こういった頭脳戦の描写がきちんとできており、敵役のエルザにも魅力を感じられたのが良かったなと思いました。

一方で、後半の「翡翠帝が偽の皇帝だと自白するシーン」。
ここから先の展開がかなり無理やりで、取っ散らかってしまったのは残念でした。

結末ありきの展開といった感じで、違和感がすごいです。

具体的には以下の点ですね。

  • 小此木とウォーレンが唐突に死亡する
  • 朱璃が皇国の再興を翡翠帝に託してしまう

まあなんというか「邪魔なものを押しのけて強引に丸く収めました」といった感じで、あまりにも無理やりでした。

特に「朱璃が皇国の再興を翡翠帝に託してしまう」というのがね、「これは違う」と強く思ってしまったんですよね。

もちろん奏海√を用意すること自体はいいでしょう。
これも一つの結末なので、IFとして描くというのは当然ありだと思います。

しかし「本作が本当に描きたかった結末としてはありえない」と私は感じたので、この結末は受け入れられなかったです。

一応ラストにて、翡翠帝が自身を支持する皇国民に対して認識を改めたように見える描写がありました。

「兄>越えられない壁>それ以外」といった奏海の行動原理、その変化の兆しを感じた瞬間でしたね。
奏海に対するフォローがなされていたので、ここは良かったと思います。

色々言いましたが、息を吐く暇もない怒涛の展開で引き込んでくるシナリオは読みごたえがありましたので、そこに関しては高く評価しています。

翡翠帝が偽の皇帝であると自白するあのシーン、かなり衝撃を受けましたからね。
ユーザーを引き込む仕掛けとしては、上手く機能していたんじゃないかなと。

奏海√の感想はそんな感じで。

それでは以下に奏海√に入らない場合の感想を記していきます。

「火取虫」の物語は奏海√に入らない場合、竜胆作戦をそのまま決行する流れになりますが、
夜鴉町が共和国に爆撃されるという場面でまた選択肢が出てきます。

宗仁が夜鴉町に向かうとエルザ√に入りますので、まずはそちらを見ていきましょう。

エルザ・ヴァレンタイン√

シナリオ評価:S

エルザは自らの忠義を守るため、共和国の爆撃を受ける民間人の救出に奔走する。
民間人を無差別に殺戮しようとしたウォーレンは更迭。
エルザは政治顧問として、皇国の民主化に向けて邁進する……。

というのが、エルザ√の大まかなストーリーでした。

いやーこれはもう率直に言って最高でしたね。

エルザが自らの忠義を見つけ、それに基づいて行動する姿勢があまりにも格好良すぎました。

共和国の爆撃から皇国の民間人を救出する。

それが母国への背信行為であり、裏切ることになったとしても、
自分の中の最低限の高潔さを守るために。

めっちゃくちゃ格好いい!!!

エルザが軍服の徽章を引きちぎり、「全軍、傾聴っっっ!!!!!」と共和国の軍人に語りかけるあのシーンは、本作における屈指の名シーンと言えるでしょう。

あと、エルザが自分の忠義に気付くまでの過程、その描写がしっかりしていたのも本当に良かったです。

エルザはウォーレンや小此木のような、私腹を肥やすことしか考えていない人物たちを毛嫌いしていましたが、皇国民を救うような具体的なアクションを起こすまでには至っていませんでした。

これはエルザの行動方針に迷いがあったからなんですね。

ウォーレンに綺麗事だと指摘されて反論に窮してしまった彼女は、「確固たる自分」というものを確立できていなかったのです。

ただ、エルザは海での宗仁との会話で、自分の中の“忠義”を見つけることを課題とし、
その果てに「自分の中の最低限の高潔さを守る」という答えを見つけます。

自分を確立したエルザは夜鴉町の爆撃から民間人を救出するために尽力し、
ウォーレンの部下を説得して無駄な血を流すことなく、ウォーレンを拘束することに成功するのです。

一人の人間として、人道に反する行いは決して許さない。

エルザの忠義を明確に描いた、素晴らしい√だったと思います。

気になった点に関してはあまりないのですが、
「小此木が共和国の軍人に殺された」とサラッと描写されたのは引っかかりましたね。

小此木はこのシナリオにおいては邪魔にしかならない存在なので排除したかったのだろうなと推察しますが、そのやり方が少々杜撰だったかなと。ここだけはやや気になった点でした。

エルザ√の感想はそんな感じで。

お次はエルザ√に入らない場合の、本筋のシナリオを見ていきましょう。

宗仁たちはそのまま帝宮に向かい、小此木の真の計画が明かされ、朱璃・古杜音・宗仁の3人は命からがら共和国軍の猛攻から伊勢野へ逃げ切るという流れでした。

いやー小此木の真意はまさかでしたね。そこまで皇国のことを考えていたとは……なんという忠臣、あっぱれです。
ただ、小此木はここで退場してしまいます。物語の流れが大きく変わってしまいました。

暗躍していたロシェルが表に出てきたり、敵ではありましたが刻庵が満を持して登場したり。
かなり盛り上がってきましたねー! 千桃、めちゃめちゃ面白いです。

邯鄲の夢

このシナリオは過去編となっており、皇国歴3年の時代が描かれます。

皇国を築いた緋彌乃命とミツルギの物語であり、
緋彌乃命が人ならざる者の凶刃に倒れ、ミツルギがその者を倒す決意を固める……というところで幕切れとなります。

本編の補足的な情報を開示するシナリオでしたね。

  • 小此木の発言の解答(本当の三種の神器は別にある)
  • ミツルギのボイスが宗仁と同一である(ミツルギ=宗仁、もしくはミツルギの子孫?)
  • 呪術は使用者の身体を蝕む(寿命が縮む)

といった感じで、不明だった箇所の解答及び新たな情報が示されたように思います。

後は「緋彌乃命を殺害したのは何者か?」という謎の提示もありましたね。

この情報を踏まえた上で、この先の物語がどう描かれていくのかを注目していきましょう。

……にしても、私の大好きな桐谷華さん演じる千波矢の最期には納得がいかない!w
千波矢が信頼していた八岐の巫女?が謀ったんですよね。絶対に許さねえからなぁ!!

柿紅葉

椎葉古杜音√

シナリオ評価:B

伊勢野で体勢を整える朱璃・古杜音・宗仁の生活が描かれるシナリオであり、
巫女が修行に励む地域ということもあって、呪術や巫女に関して深く掘り下げられる内容でしたね。

古杜音√は宗仁の力を取り戻すために全員で色々取り組む前半と、共和国軍が攻めてくる後半に分かれる構成でした。

本シナリオの良い点は3つありました。

1つ目は前半の始まり「宗仁の意識が戻らず、朱璃が車椅子を押しながら泣き言を漏らすシーン」です。

ここの牧歌的でありながら儚さを感じさせる雰囲気が私はかなり好きで、
美しいCGも相まって心に残るシーンとなりました。

2つ目は「古杜音の人としての魅力がきちんと伝わってきたこと」ですね。

宗仁の意識が戻ってから、古杜音はミツルギの力を取り戻すためにかなり身体を張ってくれます。
自らの命を投げ出す覚悟で取り組む、彼女の献身ぶりには胸を打たれました。

本編でも述べられてましたが、本当に優しくて良い子ですよね。
いざというときには決死の覚悟で臨む姿勢も格好よくて、しっかりとした魅力を感じられるヒロインだったなと。

3つ目は、「呪術の仕組みや雪花の行動に納得できたこと」ですね。

呪術で起こす奇跡には代償が伴っていたわけですが、
それを別の世界に送り込むことで、この世界に影響が及ばないようにしていたと。

ただ、送り込まれた世界は黒い雪が積もる不毛の地と化し、
その世界の神様を崇めていた故ノ国の末裔、八岐雪花の怒りを買うこととなってしまいます。

呪術がただの超常パワーではなくきちんとした代償の伴うものだったので一定の理解を示せましたし、
敵である雪花の行動原理も納得できるものでした。

そんな感じで長所があって良かったわけですが、
呪術の説明に関しては、同時に短所を抱える要素となっていたようにも思えます。

それが顕著に感じられたのは「雪花が説明だけしてあっさり退場してしまう」ところですね。

なんといいますか、雪花は「呪術や故ノ国に関して説明するためだけに出てきた感」が半端ないです。
死に方がかなり雑なんですよ。

強大な呪術を扱える雪花はかなり厄介な存在なので、「大御神の力で早々に退場していただこう」みたいな、
安易な考えで殺されてしまった感があったというか。

呪術に関してきちんとした仕組みが用意されているのに、伏線があったとはいえ「原初の呪術は何でもあり」というのはさすがにご都合を感じてしまいますよね。

「古杜音の命と引き換えに雪花を倒した」の方がよほど自然だと思うのですが。

まあそれをするとハッピーエンドではなくなってしまうので無理だったというのはわかります。
この辺りは制作上の都合もあったでしょうが、違和感を抱いてしまう結果になったのは残念でしたね。
上手く誤魔化してほしかったなーと思います。

そんな感じで多数の長所があった古杜音√ではありましたが、

  • 雪花の退場の仕方が気になったこと
  • 全体的に「説明先行」であり、物語的な面白さを損なっていたこと

これらが大きく気になってしまいましたね。

幕引きまでの流れもとんとん拍子で違和感がありましたし、そこも目に付いてしまったなと。
なので、シナリオ評価はBランクとしています。

さて、お次は古杜音√に入らない場合のラスト、朱璃√のシナリオを見ていきましょう。

朱璃√へ向かうシナリオは途中の雪花が倒れるシーンで、彼女の持っていた宝珠が壊れてしまうところから流れが変わります。

先代の斎巫女が禍魄の力を宝珠に封じ込めていたわけですが、大御神の力でそれが壊れてしまい、
禍魄が力を取り戻してしまうわけですね。

禍魄は古杜音を攫い、宗仁たちの前から姿を消します。

禍魄を止めない限り、皇国に真の平和は訪れない。
宗仁と朱璃は改めて覚悟を固め、先祖の力を借りることで禍魄討伐を目指します。

本当のラスボスがついに現れましたね。大トリの朱璃√、頼みますよ!

冬濤

宮国朱璃√

シナリオ評価:S

黒い雪を降らせて皇国を破滅させようとする雪花と、皇国の敵である禍魄との決着を付けるお話でした。

いやー、めちゃめちゃ良かったですね……。

本作のクライマックスだけあって全てのシーンが見所で面白かったのですが、
私が特筆したいのは「宗仁と朱璃が再会するまでの流れ」ですね。

宗仁は朱璃を守るために全ての因果のひずみを晴らす過酷な選択を取り、
朱璃は宗仁の行く末を勇気をもって見届ける。

全ては二千年の負の遺産を清算するために。
二人の大きな覚悟をしかと感じられて、胸にくるものがありましたよね。

恋愛に現を抜かし、緋彌乃命とミツルギに身体を明け渡しきれなかった二人は一見未熟なように見えましたが、想い合うという過程を経たからこそ、皇国のために、愛する人のために「再び別れる」という選択を取ることができたのです。

そして朱璃が愛する人を想い、桃の花を天京に散らせるあの場面。

悲しみに暮れる朱璃の想いが大御神の御心を動かしたように思えたあの場面は、神秘的ですごく美しかったです。

ミツルギと禍魄が消え、因果のひずみも全て消え、宗仁も無事に帰還する。
あまりに綺麗すぎる結末でしたが、本作においてはそれで良いと思えました。

皇国に住まう人間が貫いた忠義に、大御神が応えてくれたんだと。

宗仁と朱璃の気高い精神性、神の神秘性を感じられた晴れやかな結末でした。

よくできた映画を見終えた時のような、静かに頷いてしまう充足に満たされましたね……。

気になった点はあまりないんですが、強いて言えばエッチシーンのタイミングでしょうか。

いや、初めてをそこでするんだ……って笑いました。

皇国のお姫様との初エッチを野外はいかんでしょ!

なんかこの違和感は他の作品でもあった気がするなー。金恋のシルv(

まあそんな感じで些細な部分が気になったぐらいで、他はほとんど言及するべき点はないかなという感じです。

読み終えた後のEDでしみじみと浸ってしまって、
「あぁ、終わるんだな……」と惜しむような気持ちが芽生えて、楽しかったなと。

その感覚を抱けると私としては満点級です。『千桃』、最高に楽しめました。

主人公“鴇田宗仁”の感想

©AUGUST

明義館、鴇田宗仁。豆腐大好きな本作の主人公です。

宗仁は序盤こそ戦うことしか能のない朴念仁という感じでしたが、
物語が進むにつれてしっかりと成長していたのが良かったですね。

二千年前に呪術で作られた「ミツルギ」だったのは驚きでしたが、
振り返ってみると、異様な再生能力などから人外であることは示唆されていたんだなと。

まあプレイヤーとしては過去編のボイスで一発で分かるわけですけどね。あれはもう隠す気がないでしょうw
ミツルギのボイスは途中まで伏せていた方が面白かったんじゃないかなーとか思ったり。

ともあれ、武人としての宗仁は忠義に関して確固たるものを持っていたので、そこは魅力的でしたね。

「なんのために戦っているかわからないというのは、なんのために死ぬのかわからないということだ」という言葉はなかなか考えさせられました。

エルザにも良い影響を与えていたので、しっかりヒロインを導けていたんじゃないかなと。

総評

『千の刃濤、桃花染の皇姫』は宗仁と朱璃が小此木打倒の宿願を果たそうとするも、
そこに隠された事実を知り、真の敵を打ち倒して皇国の平和を取り戻す物語でした。

  • 奉刀会の仲間たちと小此木打倒に燃える前半
  • 皇国建国時の過去が描かれる中盤
  • 呪術の仕組みと皇国の真の敵が明かされる後半

といった感じで常に見所に溢れていたので、夢中で読み進めてしまいました。

私が特に好きだったのは「エルザが夜鴉町の住民を爆撃から守るシーン」ですね。

己の忠義を守るため、目の前で死んでいく人たちを少しでも助けるために、
故郷である母国に背き、命すら懸けることができる。

……もうあまりにも格好良すぎて痺れました。エルザはマジで最高の忠義を見せてくれましたね。

そしてエルザの以下の独白が、私にはかなり刺さったんですよ。

「死の瞬間、後悔せずにいられるかどうか」

これは私の考えと完璧に符合していたので、感動すら覚えましたね。

私は「後悔なき人生を」を座右の銘として生きているので、エルザのこの姿勢、考えには大きく共感したんですよね。

そして本作の評価点として外せないのは「演出」でしょう。

まるでその場で見ているかのような、臨場感に溢れた演出には感心するばかりでした。

建物の合間から戦闘ヘリがアニメーションを伴って浮上してきたときには、朱璃とは別の意味で驚いたぐらいです。

私はこの演出に驚きましたよw

共和国軍の銃撃、爆撃の描写は力が入っているので、その分恐ろしさがしっかり伝わってくるんですよね。
ここがチープだと敵が弱く見えてしまいますから。さすがAUGUSTさんです、本当に上手いことしてくれてますよ。

あとは「世界観」ですよね。皇国の和の世界観は極めて高いレベルで完成されていたように思えます。

タイトル画面を漢字表記で統一する、皇国の雅な音楽と共和国の西洋風のBGMなど、徹底した作りもさすが。
AUGUSTさんの魂を感じました。素晴らしいの一言ですね。

一方で気になった点ですが、全体としては正直ほぼありませんね。

個別のシナリオを細かく見るとありますが、それは上述しているので総評では割愛ということで。

まあエッチシーンが邪魔に感じたぐらいでしょうかw
シナリオゲーはこの問題がね、切っても切り離せないんですよねぇ……。

まあそんな感じで、シナリオも演出も世界観も音楽も全てが最高クラスの『千桃』でした。

極めて高い水準で完成された作品なので、全てのビジュアルノベル愛好家にプレイしてほしいですね。

心からプレイして良かったと思えた傑作でした。

点数

千の刃濤、桃花染の皇姫
シナリオ18
キャラ17
音楽20
システム・演出20
全体の完成度19
合計 94点 (各項目は20点満点)

おまけ

マスターアップイラスト

商品リンク

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメント一覧 (2件)

  • Cyberさん。いつも大変お世話になっております。
    えりんぎです❤⃛ヾ(๑❛ ▿ ◠๑ )
    先日のYouTube共同配信では大変お世話になりました。

    さて、『千の刃濤、桃花染の皇姫』ですか。私は本作を発売日に豪華版で予約し、速攻でプレイした記憶があります。それ以降、再プレイは1回しかしていないので、細部を忘れております。ゆえに、コメントの質は保証できません。稚拙ながら、読んでいただけると嬉しいです。

    それで、『千の刃濤、桃花染の皇姫』ですが、先に私の基準での評価を申し上げると、78点(良作)。80点には届かず、名作の域には至っていないというのが本音です。理由は多数あるのですが、Cyberさんが仰ったように細部の作り込みが甘く、ご都合主義が目立つ。それゆえに、せっかくの緻密な世界観の魅力が減衰されているように感じたのです。一番重要なのは、当然、ED寸前の例のシーン(最重要ネタバレなので伏せます)。ただ、滸vs.槇のシーンをはじめ、全体的な脱落者が明らかに少ない物語の流れには強烈な違和感を覚えます。従来のオーガストらしいと言えば、そうなのですが、あと一歩、踏み込んで、プレイヤーの脳天を殴りつけて欲しかったと切に願いました。
    というかですね、全体として「甘い」のですよ。厳しい言い方をすれば、世界観設定に対して、ぬるい展開と言っても良いかもしれません。Cyberさんが記事で指摘していらっしゃったこと。全て頷けます。詰めが甘いと言わざるを得ません。

    そもそも、このような評価を世間的にも、何より私としても下してしまっているのは、かの傑作、『穢翼のユースティア』との比較の影響が大きいでしょう。『ユースティア』には一貫性と説得力があった。『千の刃濤、桃花染の皇姫』にはいずれも明確に不足している要素です。丁寧ではあるけれど、ブロガーとして、評価者として分析してみると不足が見られる。そこが残念な点だとも思っており。作品制作は難しいのだなとはっきりと実感します。

    一方、良かった点。「世界観」、「音楽」、「演出」(+「システム」)でしょう。特に、Cyberさんご自身が評価している通り、音楽要素は満点でしょうね。OP、ED、挿入歌、イメージソング。BGMに至るまで完璧に近いでしょう。個人的にはED『月夜に舞う恋の花』。CyberさんがXでお好きと仰っていた通り、私も本気で好きです。1番最初に聴いた時の衝撃は今でも忘れません。約8年経っていて忘れていないわけですから、相当良い印象だったのでしょう。世界観、演出は記事で触れていましたが、最高クラスでしょうね。2016年9月発売の作品でありながら、圧倒的なこの二大要素。他最新作と比べても勝ることでしょう。

    私から述べたいことは一先ず以上です。本当はCyberさんとはさらに本作を語り合いたいですよ。いくらブログのコメントの場とはいえ、ネタバレには配慮しなければなりません。機会があれば(それは自分達で作るものですが)、是非、また『千の刃濤、桃花染の皇姫』やオーガスト作品についてお話しましょう。

    長文失礼しました。今後も、Cyberさんを心より応援しております。以上。

    • えりんぎさん、いつもお世話になっております。
      Cyberです(*^^)v
      こちらこそ、先日のYouTube共同配信はありがとうございました。

      『千の刃濤、桃花染の皇姫』の感想へのコメントありがとうございます!
      早速ですが、返信させていただきます。

      >>滸vs.槇のシーンをはじめ、全体的な脱落者が明らかに少ない物語の流れには強烈な違和感を覚えます。従来のオーガストらしいと言えば、そうなのですが、あと一歩、踏み込んで、プレイヤーの脳天を殴りつけて欲しかったと切に願いました。
      >>このような評価を世間的にも、何より私としても下してしまっているのは、かの傑作、『穢翼のユースティア』との比較の影響が大きいでしょう。『ユースティア』には一貫性と説得力があった。『千の刃濤、桃花染の皇姫』にはいずれも明確に不足している要素です。

      そこはやっぱりそう思いますよね。
      本作は『ユースティア』よりも万人向けにシフトしたようなイメージで、全体的に丸い作風になったなぁと感じました。

      デキは確かに良いのですが、より幅広いユーザーに向けた「守りの作品」という印象があり、『ユースティア』が刺さった方にとっては物足りなく感じてしまったのかなと思います。
      『ユースティア』の聖女√では私も脳天を殴りつけられましたからね笑
      あれをもう一度味わいたいという意見はすごくよくわかります。

      >>OP、ED、挿入歌、イメージソング。BGMに至るまで完璧に近いでしょう。個人的にはED『月夜に舞う恋の花』。CyberさんがXでお好きと仰っていた通り、私も本気で好きです。1番最初に聴いた時の衝撃は今でも忘れません。約8年経っていて忘れていないわけですから、相当良い印象だったのでしょう。

      いや本当にね、『月夜に舞う恋の花』はマジでヤバいですよね(語彙力)。

      歌いだしこそ落ち着いた雰囲気ですが、サビで一気に力強くなり、間奏の部分では熱いサウンドで畳み掛けてきて、最後は綺麗に締める。
      国の争いの壮大さや恋の儚さなど、本作で描いてきたものがしかと伝わる名曲だと思います。

      私は特に間奏の「春→夏→秋→冬」と進んでいく歌詞が大好きです。
      完走した後に振り返ると本編とリンクしていたことに気づいて、エモさを感じずにいられませんでした。

      >>世界観、演出は記事で触れていましたが、最高クラスでしょうね。2016年9月発売の作品でありながら、圧倒的なこの二大要素。他最新作と比べても勝ることでしょう。

      本当にその通りだと思います。このレベルの作品が2016年に出ていたことに驚きを隠せませんでした。
      なぜ私はもっと早くプレイしなかったのか……w プレイして本当に良かったです。

      今回もコメントしていただきありがとうございました。

      こちらこそ、えりんぎさんの今後の活動も応援しております。
      お互いに頑張っていきましょう(*´ω`*)

      以上となります。長文失礼いたしました。

コメントする

CAPTCHA


目次